テロとすれ違い
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飛行場の片隅に連れて行かれた727と乗客

   みなさんは、テロと直面したことはありますか。例の同時多発テロ事件で思い出しました。以下は私が10年ほど前に経験したちょっと物騒なお話です。アメリカでのハイジャック対策の例として、何か参考になるのではないかと思います。

***

 早朝、7時半のコンチネンタル航空のフライトだった。搭乗開始のアナウンスで、椅子に腰掛けて新聞を読んでいたビジネスマンたちも、肘掛けにもたれてうたた寝していた若い男も、コーヒーを片手に思いにふけっていた初老の女性も、けだるそうに立ち上がってチケットを上着から取り出した。機材はボーイング727-200。従ってジャンボジェットほどの混みようではないが、ボーディング・ブリッジの入り口にはすでに人の列ができていた。

 私はまだここニューヨーク州ロングアイランドに転勤してきて一年もたっていなかった。ニューヨーク・ラガーディア空港はマンハッタンへの玄関口であると同時に、ニューヨークから全米に出張してゆくビジネスマンの起点だ。朝のラッシュアワー時のタキシング・ウェイは高速道路と同じように、出発の順番を待つ旅客機で渋滞する。

 ボーディングを待つ人の列に、ビジネスマンとも観光客とも似つかない赤いチェックのシャツを着た白人が、段ボールの箱を小脇にかかえて並んでいた。段ボールの箱の蓋が開いていて、日本製らしいポータブルカセットレコーダーがのぞいていた。その男は航空券を乗客係りの女性に見せたが、座席の確保が出来ていなかったらしい。係りの女性は乗客口の壁にかかっていた受話器を手に取ると、チェックインカウンターらしき相手と連絡をとり、その男のために座席番号を入手した。男はどことなく挙動不審で、落ち着かないそぶりだった。私はその男と近くの席でない事を祈った。果たして挙動不審男は機内に入り、頭上の荷物入れに例の段ボール箱をやっとのことで収納すると、私の二つ前の席にすわった。機内はほぼ満席状態だった。

 乗客全員が着席し、15分が経過した。私は窓際の席で飛行機の周りを見ていたが、乗客の荷物類の搭載作業はすでに終了し、その他サポートの車両も飛行機を離れて、いつ出発してもおかくない状況にあった。静かなまま30分が経過した。機長から「テクニカル・トラブル」のアナウンスがあった。こんな事はアメリカでは日常茶飯事。何かの理由で出発が遅れるときは「テクニカル・トラブル」とアナウンスすることが「運用マニュアル」に書いてあるに違いない。さらに10分が経過したところで、機長がコクピットから乗客キャビンに姿を現し、躊躇することなくまっすぐに、後部座席の方に向かって歩いてくる。この姿は非常に毅然としていた。

 機長は挙動不審男の座席の前で立ち止まり、男に小声で何かをささやいだ。男は最初、抵抗している様子だったが、立ち上がって機長の指示に従った。機長は例の段ボール箱を丁寧にコンパートメントから出すと、それを持って男のあとに付き添って、前方に姿を消した。いったん閉まった昇降のドアーがスチュワーデスによって開けられ、男は外に追い出された。私は飛行機の窓に顔を押しつけて、前方の外の様子を伺ってみた。男は飛行機を出るやいなや後ろ手に手錠をはめられ、私服警官に付き添われて、タラップを降りて行った。地上ではパトカーが待っていた。

 その後も機内放送は「テクニカル・トラブル」で何ひとつ事実を伝えるものはなかった。「テクニカル・トラブル」が理由で乗客は全員いったんロビーに降ろされた。

 次になにが起こったかというと、搭乗するはずのコンチネンタル航空727は牽引車に引かれて、ゆっくりと空港ターミナルを離れて、どこかへ消えてしまった。取り残された乗客たちは30分ほどロビーで待たされたあと、バスに乗せられ、コンチネンタル航空727の待つところまで輸送された。その727が牽引されていった場所は滑走路からも、どのビルからも離れており、他の飛行機もいない、閑散としたところであった。いままで見たこともない場所に連れて来られたのであった。つまり、ここだと、万が一飛行機が爆発事故を起こしても他に全く被害は及ばないであろう。そんな所だった。

 飛行機からは、すでに乗客荷物がおろされて、乗客の持ち物であるスーツケースの類がきれいに地上に整列していた。そこで特別調査班らしい男があらわれて、乗客に対し、てきぱきとした口調で指示が出された。「自分の荷物を確認して、その荷物をあそこまで運んでください。」  乗客それぞれが自分の荷物を確認して、荷物を移動した。確認作業が終わった人から順番に、普段使わない727の後部タラップからゆっくりと再び搭乗した。荷物は再び機内の貨物室に搭載されていった。

 乗客がおおかた座席に着くと、通路に特別調査班のリーダーらしき人が現れ、ここで初めてそれらしいアナウンスをした。さも自信満々で、半ば英雄気取りでその男は言った。

 「機内のすべてを調べ、不審なものはすべて取り払いました、飛行に全く問題ありません。安心して空の旅をお楽しみください。」

ここで乗客は拍手。実にアメリカだ。

 そして機は予定より2時間30分ほど遅れて出発。なんと言う手際の良さだろう。そのスムースな行動、合理的な方法。これもたぶん「安全マニュアル」があって、それに則った行動なのであろう。常にテロに直面しているアメリカだからこそできた技か。それにしても迅速な処理であった。

 一方、爆弾がしかけてあるかも知れない飛行機に再び乗って、そのまま旅をした乗客たちは、目的地について到着ロビーに入るまで気が気ではなかったに違いない。私も不安だった。

乗客はそれぞれ自分の荷物をチェックする

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