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5.金魚のはなし
「飛曹長、知ってましたか?零式小型水偵のニックネームが金魚だって」
後部席搭乗員の奥田兵曹がこわい顔をしてたずねた。
「ああ知っとる。多分尾ひれが金魚に似てるからじゃないか」
「冗談じゃないですよ、わが愛機が『金魚』なんて。陸軍じゃ『隼』とか、かっこいい名前がついてます。自分は金魚に乗ってますなんて親にも言えません」
「そうだな。本隊では金魚と呼ばないように徹底しよう。それにしても誰が名付け親かな」
金魚の名誉挽回のためにも、なんとか水偵による攻撃計画を上に提案しなくては、と、藤田飛曹長は参謀長さながら、寝る間も惜しんで企画書の作成にかかっていた。実は艦長から、案があるならばちゃんと文書にして持ってこい、と言われていたのだ。
そして、ついに企画書が完成。藤田はそれを持って早速艦長のところへ相談に行った。
「田上艦長殿、企画書ができました」
「説明せよ」
「私の調査したところによれば、ほにゃほにゃこれこれのように準備を整え、○○に××を仕掛け、敵地ふにゃららに於いて何々をシコシコすれば、勝算は堅いと思われます。」
「う〜む。『敵地ふにゃららに於いて』というところはさすがである。鋭い。これは面白い、早速艦隊司令に報告しておこう。この提案が上層部によってどのように処理されるかについては、あずかり知らぬところではあるが、そのうち何かお上から命令が下るかも知れん」
田上艦長はその日のうちにこの企画書を軍司令部、潜水艦作戦担当の井浦中佐のところに届けた。届けただけで特に説明はしなかった。藤田飛曹長によって周到に準備された書類がすべてを語ってくれると思った。
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