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10.飛行準備

1942年(昭和17年)9月7日、アメリカ西海岸、オレゴン州の沖に到着した。しかし海が荒れている。この荒波では発進も着水も危険だ。ここまで来て無茶はできない。しばらく待機することになった。
敵に有用な情報を与えないように、アメリカ西海岸では民間ラジオによる天気予報を厳しく制限していたため、田上艦長等は目的地周辺の天気情報を入手できなかった。

9月9日未明、ようやく穏やかな海を迎えた。
田上艦長がたずねた。
「藤田飛曹長、行けるか?」
「行きます」
「成功を祈る」

格納筒から飛行機をロープで引き出して、フロート、主翼を組み立て発進準備が整うまで時間はは30分。これは操作マニュアルに記載されている正規の時間より短い。整備長以下訓練のたまものである。この時間が短ければ短いほど敵からの発見を免れることができ、生存率が上がるわけだ。
さらに今回は76キロの焼夷弾を左右の翼の下に一個つづ吊り下げての発進である。うまくいくだろうか。テストではうまくいったが、実戦ではやはり緊張する。通信員、ナビゲーション、観測、爆撃、敵機が来たときには後部席から後方機銃掃射も担当する奥田兵曹は、後部席で目を閉じて何か祈っているようだった。

「奥田兵曹行くぞ・・・スイッチオン・・・コンタクト!」
パタパタと言う小気味良い音でエンジンが始動した。
いよいよ運命の時がきた。

オレゴンの森林は昨晩、久々の大雨で水浸しになっていた事は知る由もない。




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