11.出撃
9月7日0534、零式水偵は勢いよくカタパルトから飛び出した。
焼夷弾を携行しているため機体が重く、いったん機体が沈むが速度を上げるに従って少しずつ上昇のカーブを描いた。
右に浅いバンクをとって、最初の目標通過点であるブランコ岬灯台に向かう。
「飛曹長、針路091」
「ヨーソロ、、針路091」
朝日が海を赤く染めるころ、エンジンも軽快な音を出してさらにゆっくりと上昇を続ける。
やっと時速140キロ、これが小型水偵のなきどころで、パワーがない。
肩越しに後ろを振り返るといつになく整備員たちが甲板で手を振っている。皆、この任務の重要さを感じているのだろう。
小型水偵を放ったあと潜水艦は直ちに潜航する。ランデブー地点で再び会うために。
田上艦長は藤田が絶対に帰って来ることを信じ、危険を覚悟でランデブー地点に浮上し水偵を待つ。
藤田飛曹長は田上艦長が必ず待っていると信じて伊25潜水艦を探す。
「走れメロス」の世界だな。
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